
そもそもの出会い
今は昔、私が小学校に入学した1971年(昭和46年)の話です。
ある日、父がどこからか一羽のガチョウをもらって来ました。幼鳥ではなく、成鳥でした。
鳴き声がガーガーとやたらうるさかったので、名前は「ガーコ」に即決。
いま思えば、コブが大きいガーコは〈オス〉でした。
多分、オスでもメスでも名前は「ガーコ」になったと思いますけれど…。
父は早速、「ガーコ」のオリを作りました。
りんご箱や農機具を収納するための粗末な小屋(←ワラの土壁)の外壁の一角に、目の荒い金網で囲っただけの、ちんけなオリでした。しかも屋根は無く、完全に雨ざらしでした。
我が家に連れて来られたばかりの「ガーコ」は、人が近づくと頭を低くして威嚇してきました。

声はガーガーうるさいし、やたらメンチ切ってくるガチョウ。最初は怖いばかりでした。ま、ガチョウからしたら、人間こそが怖くてイヤだったかもしれませんが。
小学校入学当時
私は就学前は、近所の保育園に通っていました。
りんご畑の繁忙期は、あたりが真っ暗になるまで、私と四つ下の弟の二人のみが保育園に居残って、母の迎えを待ったこともありました。
ところが小学校に入ってからは、私は午後の早い時間には下校していました。親は家から離れた畑にいて、私はポツンと、一人さびしく留守番になりました。
それまでとは環境が大きく変わりました。
学校に慣れて、放課後に友だちと一緒に遊ぶようになるまで、ちょっと時間がかかった記憶があります。
だから、メンチ切って威嚇してくるような鳥でも、家に「ガーコ」がいるのが嬉しかったのです。
朝起きるとすぐ、「ガーコ」の様子を見に行って話しかけたり、その辺に生えてる草をあげてみたりして、すっかり私のおともだちになりました。
「ガーコ」も私に慣れて来たのか、前のように威嚇しなくなっていました。
衝撃の展開
そして、そんなある日のこと。
突然、その「事件」は起きました。
「ただいま~」と元気よく帰って来た私に、珍しく早い時間に家に居て、玄関まで出迎えて来た母が、沈痛な面持ちで言いました。
「ガーコ、死んでしまったよ」と。
「えっ!なんで~?」と涙がブワッと出てきました。
母によると「トラバサミ」(当時は使用できた)というワナを踏んでしまい、痛がって可哀相だったから、楽にしてやったとのことでした。
居間に入ってみると、伯父さんや父の友達たちが数人来ていて、ワイワイと盛り上がっていました。
私はガーコの死が悲しくて、すぐに自分の部屋に飛び込みました。そして当時買ってもらったばかりの二段ベッドの上の段で、ふとんにもぐっておんおん泣いていました。
少し時間が経ってから、そっと母が部屋に入って来て言いました。
「ガーコ、食べる?」
え? 信じられない衝撃の言葉でした。
「食べないっ!」
収まっていた涙が再びこぼれて来ました。
あの、居間に集まっているオヤジどもは、
ガーコ鍋をさかなに、一杯つけて盛り上がっていたのでした。
怒りが沸いてきましたが、苦情は言えませんでした。
後年、その一件は笑い話になりましたが、母によると「ガーコ」は最初から食べるために飼っていたのだそうです。んもう!
当時、何も知らない私に「ガーコ」の死を告知する役目を押しつけられた母。その時の気持ちはいかばかりだったでしょう?
でも、遠慮がちにでも「ガーコ、食べる?」って聞けるあたり、オヤジどもと大差ないような気もします。安い女優みたいな演技にはすっかり騙されましたけど。笑。
それにしても、ひどい大人たちです。子供のペットを「鍋料理」にするなんて。
伯父のこと
あの時、居間にいて酒を酌み交わしていた伯父には、狩猟の趣味がありました。ハンターの仲間たちと山に行って、ウサギやカモ、たまにクマなどを仕留めて解体し、食べていました。だから「ガーコ」の件も伯父が一枚噛んでいたのかもしれません。オリの中にトラバサミなんて最初から無かったし…。
この伯父たちの狩ってきた野生動物の調理法は、あきれる程に毎回同じで、獣の臭みを消すために投入した大量のニンニクのにおいが強烈でした。
なかなか噛み切れない、骨付き&少し毛も残っていたウサギ肉。煮込んで変な色になったクマ肉。ヤスコも食べでみろ、と言われてチビッと味見はしましたが、私には美味しいとは思えませんでした。
ただ、そうやっておすそ分けされた中では、「キジ」は旨味が別格でした。臭みは少なく、あっさりした味付けの方が、その旨さがわかりました。いわゆる、ジビエの醍醐味って、これなんだろうなといった味でした。
キジは明らかに、普段食べなれた鶏肉とは一線を画すものがありました。「ガーコ」の件では泣き腫らした私にも、忘れ難い味でした。
これが、ガチョウの「ガーコ」の思い出です。
…って、おいおい!いつの間にか主旨、変わってるし!
「ガーコ」の話を「キジ」の美味しさの話に収斂させていくとは…。
すまなんだ、ガーコ。
私もすっかり「ひどい大人」の側になってしまったようだよ。
